ジョージ・クリントン最後のツアーを觀に六本木のBillboardに一人で行った。
御大のステージを間近で見れたというのも素晴らしい体験だったのだが、周りの若いミュージシャンを立てて、観客を沸かし、最後自分に持っていくというのは他のアーティストにはない。
完全にプロのパフォーマーの域だ。
そんな、それはそれは大興奮冷めやらぬ中、終演21時。
久しぶりの六本木をどうしてくれようかと、昔馴染みだったロックバーに足を延ばした。
そこは、六本木の野外フェスと呼んでいるくらい、ヘビーメタル好きな外国人客が多く、夜な夜な盛り上がる。
海外のアーティストが来日すると、この店に来るくらいで、いまでは、ジャスティン・ビーバーやエド・シーランなんかがお忍びでくる。
その昔、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュとアクセル・ローズが20年以上前に来て、スラッシュがトイレに間に合わず、トイレのドアの前でションベン垂れたという伝説などもあるくらいの老舗である。
ライブの興奮をどこかにぶつけるには打って付けの店なのだ。
店に入ると、わりと空いていた店内にインド系アメリカ人のオーナーに、久しぶり!と声をかけられる。
なかなか顔出せず、ごめんね、と、伝えると、そのスタンディングバーの奥に通された。
奥は私がいつも陣取る場所があり、その前には音をかけるスタッフがいるのだ。
そこには、初めて見る若い女性バーテンがいた。
ニコニコとして、ちょっと可愛らしいそのバーテンの首の付け根にtattoo。
腕のあちこちにもtattoo。
そして、GhostというバンドT。
んだよ、最近の北欧メタル系かよ、あんま話すこともねえなと、思っていた。
突っ立ってる感じだったので、最近のワケェモンはニコニコしてりゃあ、いいと思ってやがる、と私はそのままビールを頼んでタバコをふかしていた。
そしたら、ニコニコしながらサッと灰皿。
ニコニコしながらサッとビール。仕事できんじゃん…
ニコニコしながら、よく来るんですか?と話しかけてきた。
「すごい久しぶりなんだよ。
オーナーはよく知ってるから、六本木行くと顔出すようにしてんだけど、最近六本木まで足向かなくなっちゃってね…」
「久しぶりなんですね!
ここの音変わったの分かります?」
「え?」
「iPadでBluetoothになりましたー!」
「ホントだ!
前までミニコンポのCDプレイヤーで音かけてたのに!
音割れまくってたもんね!
めっちゃ、おとなしくなってんじゃん!
いいんだか悪いんだか…」
「でもどんな選曲も応えられるようになったよー!
なんか聴きたいのありますかー?」
「まあ、そうだけどさ…
んーじゃあ、PANTERA。」
PANTERAが、かかると、さっきまで後ろ向いていたインド系アメリカ人のオーナーがカウンターを叩いてリズムを取り出した。
しばらくすると、頭振り回してきた。
いやあ、オーナーさすが。分かってんなあ。
「いやあー弱い。
なんか、音が軽くなっちゃったよ。
まあ、話はしやすくなったけどさあ…
なんだかなあ…」
「バンド誰が好きなんですか?
私は、Ghost。
このキャラが王子様みたいでしょ?」
と、お笑い芸人の鉄拳みたいなメイクしたメンバーをニコニコとしながら指してきた。
「これ王子様?」
「魔界の王子様〜」
「ほう…」
なんだよ、この会話。
私は音の分かるヤツと話に来たんだ。
こんなたわいもない話をつまんねえ若いねえちゃんと話しに来たわけではない。
だがこの状況では、コイツと話すしかない。
「ここ出るの曜日決まってるの?」
「月曜と火曜日です」
「じゃあ他で仕事しているの?」
「うん。長崎とか地方で働いてる。」
「長崎?地元なの?」
「違うんだけど、派遣でいろいろと地方回ってて。
お兄さんならいっか。
うーん、チョット待ってね。」
と、スマホを取り出し、何やら探している。
しばらくすると、
「派遣OLやってるんです!」
と、ニコニコしながら写真を見せてくれた。
自撮りの盛りまくりの写真。
というか、これコスプレのパネマジじゃねぇか。
「あーなるほど。そっちか。でも長崎まで行く必要あるの?」
「ほら、これセクシーショット!あはは!
お客さんいるからねぇ。日本中どこでもいくよー!」
すげえ。これが噂に聞いていた、日本を駆け巡る風俗嬢。
好きな場所で働きながら、自由な時間と経済的な余裕を手に入れている。
SNSのインフルエンサーの裏の顔ではないか。
こうやって、インスタグラムではキラキラをアップしてやがるのか…
てえしたもんだ…
そして、これはファンタジーの入り口に私は居るではないか…
とりあえず、2拍して、ねえちゃんを拝んでおいた。
そんなファンタジーを邪魔するように、インド系アメリカ人のオーナーと、隣のお一人様の女性客が、ウンコを手で拭くのか、拭いた手はどうするのかとくだらない話をしている。
その30歳手前くらいの女性客は私を巻き込み始めた。
「ねえ!トイレしてお尻直接手で拭かないでしょ?」
「拭かない。だけど、あれ風呂入る前とかに用足すんだよね?」
と、オーナーに振る。
そうだよ、と、オーナーは、食べていたシャインマスカットを私にくれた。
私はそれを食べているのを見て、女性客は、
「いやあー私、潔癖じゃないけどそれはキツイわあ!」と言い出す。
「じゃあ、食わなきゃ良いじゃんよ。いろいろ文化あるんだからさ。そもそも、失礼だぞ!」
「いやあ、ごめん。私、今日めちゃくちゃ酔っててさあ。
昼から飲んでて、肉フェス行って、20杯くらい飲んで、ここで何件目だろ、、、」
「そして、まだ飲むわけだな。」
と、私が突っ込むと、
「あのさ、いい男と付き合いたいじゃん。付き合ったら自慢したくならない?
あー、じゃあ、めちゃタイプの女とエッチしたら、自慢したくならない?」
「俺はなんないね。黙ってる。話したらネタにされっから。」
「えーーーなんでーー?自慢したくなるよね?」
とバーテンのプロ風俗嬢にも聞く。
「うーん、あたし、一人しか付き合ったこと無いからわかんないやー」
なにそれ。返しプロじゃん。
このねえちゃん全然面白い。
「それ言われちゃあ、何も言えないなあ、、、こう、ステータスが上がる感じしない?」
「お前は、アメックスか。なんなんだよ、ステータスって。どんな男と付き合ってきたんだよ。」
「今までの彼氏、みんな外人の外交官。外交官は数年するといなくなっちゃうんだよ、、、」
「いなくなるだろうな。俺も2〜3年海外赴任とかなったら、現地に女できちゃうもん。
そうでなくても、俺くらいになると、どこでもできちゃうからな。仕方ないの。」
「なにそれ、彼女がいても?最低!」
「最低じゃないよ。お前が男を知らないだけだ。男はみんなそうなっちゃうの。」
「えーーーーなんでよーーーー」
「近い!顔が近い!!!」
「男はいいよね、年取ってジジイになっても、ハゲてもさあ、、、」
「俺ハゲだぞ。」と、帽子を取ると、ステータス女とプロ風俗嬢に、えええええ!と、驚かれた。
プロ風俗嬢にそんな驚くなよ、幾つに見えたんだよ、と聞いた。
「30歳前半。」
「あたしも、30半ばくらいかと。幾つなの?」
「44歳」
「ぜんぜんみえないーー!!」
「はい、飲み屋の鉄板ね。ぜんぜんみえないーー!!でました!」
「でも、男は40すぎからよね。落ち着いてるし。」
と、ステータス女が切り出してきた。
私は、お前に用はないんだよ。
目の前の、プロ風俗嬢のねえちゃんとファンタジーな会話を楽しみたいのね。
どうしてくれっかな、こいつは、、、
「あたしもさー、32なんだけど、白髪が多くて、、、ちょっと見てみて。」
と、後頭部に分け目を作り、白髪を私に探させる。
「ねえよ。ぜんぜん。」
「そんなことないよ、絶対あるから、あったら抜いて!」
立ち飲みのバーで、知らない女の毛繕いをさせられる画は傍から見たらかなり笑えるものかもしれないが、いささか面倒になってきて、適当に黒い毛を二〜三本まとめて抜いてやった。
「痛い!!」
「あ。まちがえちゃった。」
「間違えちゃったじゃないよ!しかも黒いのをまとめて!!」
「だーかーら!顔近いっちゅーの!!わかったよ、ちゃんと抜くから。」
これを見ていたプロ風俗嬢は爆笑である。
ステータス女は、今度はちゃんとね、とまた後頭部を見せてくる。
渋々、携帯のLEDライトを照らして、白髪を発見し、抜いてやると、
「ほらーー!ありがとう!」と笑顔になった。
「なんだよ、お前可愛いな。」
「えーやめてよー」
「うそぴょーん。」
「なんなの、このジジイは!!」
「わかった。抱いてやるから。おとなしくしろ。」
「誰が抱かれるか!あんたなんかに!」
「俺はいま、猛烈にこのバーテンの子にお願いしてるんだ。空気を呼んでくれたまえ。」
「いーよー」とプロ風俗嬢。返しがさすがだ。
と、ふと我にかえった。
こんな茶番劇みたいな漫才を目の前で見せられ、ただ笑っているのかと思いきや、ひょっとしたらこの嬢の手のひらで踊らされてるのではないか。
私が何を欲しているか最初から分かっていて、最後、自分に来るのを分かっているのではないか…
この茶番を通じて、俺に心開いたのか…
ああ、、、この心地よさ、、、ジョージ・クリントンではないか!
目の前に鎮座しているのは、ジョージ・クリントンレベルの風俗嬢!!
このことに気づいた私は、彼女に飲み物を奢り、会話に励もうと思ったのだが、まだまだ隣のステータス女がうるさい。
こりゃ、また来たときにじっくり話そうと、あ、終電だ、と言ったら、もう帰っちゃうんですか?と聞いてきた。
私も、きっちりと時間どおりに終演して、ガヤの居ない次回に挑もうというわけである。
ファンタジーはこれからだ。
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